2024/04/14 09:58


「詩は魂の言葉であり、感情の表現だ。言葉に囚われず、心の深い奥に広がる詩の力を感じてほしい。」ーオマル・ハイヤームー


イランはこれまでハーフェズ、サーアディといった詩人を筆頭に西洋諸国の哲学や文学に多大な影響を与えた詩人を輩出し、『詩の先進国』と呼ばれることもある国です。古代ペルシアから現代に至るまで、多くの偉大な詩人がこの土地から生まれました。フィルドゥスィー、ルーミー、そして上述したサアディー、ハーフィズ、オマール・ハイヤームなど、彼らの名前はペルシア文学の至宝として称賛されています。彼らの詩は、イランの歴史や文化の重要な一部として、世代を超えて愛されているだけでなく、ゲーテやニーチェなど西洋の思想家達も、その美と智慧に感銘を受け、彼らの思想に影響を与えたと言います。なかでもドイツを代表する文豪ゲーテは、「ハーフェズの詩を理解するには 魂まで一汗かく必要がある」と語り、晩年に上梓した『西東詩集』が生まれた背景には、ハーフェズの影響があったことが知られます。若くして名声を得、大文豪となったゲーテが、キャリア晩年に至ってまでハーフェズの詩を探求したのはなぜか。一度読むだけではわかり得ないペルシアの詩の深みが、その魅力なのかもしれません。


現代でも老若男女問わず多くのイランの人たちは、自身のお気に入りの詩を持ち、尋ねるとスラスラとその詩やお気に入りの一節を諳んじます。また友人、家族と集まると、順番に詩集を無作為に開き、そのページに載っている詩を見て、自身の行く末を思案し、ふるまいを考えるという占いのような特有の文化もあります。このように現代においても詩と共に生きる文化が根付いているのがイランです。


最後にひとつ、NYの国連本部ビルの壁に飾られている、イランの詩人サアディの詩を引用します。
サアディはハーフェズと並び世界で最も有名な詩人の一人で、アフリカ、中東、インド、中国を旅をしたあとイランのシーラーズで2つの詩集を発表しました。その中で多くの戦争、荒廃、非人道的な行為を目の当たりにし、怒り、哀しみ、そして希望と願いを込めてこの詩を書いたと言われます。イランだけでなく、世界で最も有名な詩のひとつになり、バラク・オバマ大統領のスピーチや、Coldplayの詞の中にも引用されています。

 アダムの子である人間は
 同じ土から創られた
 ひとつの体の手であり足である
 一本の足が痛むと
 手も、ほかの足も、安穏としてはいられない
 他人の悩みに目を向けない人は
 人間と呼ぶに値しない

(石谷尚子訳)

美しい文化的な側面を持つ一方で、この記事を書く2024年4月14日の未明にイランはイスラエルへ報復攻撃を開始しました。サアディの詩が、為政者のあと一歩を踏みとどまらせ、平和を必要としている人々の盾となることを願っています。